外資系医療機器メーカーの営業をしていた私のエピソードを紹介させていただきます。
医療機器メーカーの営業活動は実は「手術の立会い」が多くを占めることがあります。
特に未導入の病院に対して、弊社の医療機器を導入できた後には公正取引規定上、定められた範囲内での手術への立ち会いを行います。
手術立ち会いの際、具体的に「どんなことをするのか?」というのは、メーカーや販売する製品ごとにやや異なります。
正直、医師や放射線技師、臨床工学技士、看護師の方々が使い方を確実に把握されている製品のマイナーチェンジ時の立ち会いでは、その場に居て聞かれたことに答えるだけでも仕事になります。
しかし、私が担当していた製品は日本に導入されたばかりで、誰もが触ったことすらない製品を広める仕事をしていました。
感覚的には、ガラケーしか使ったこと無い人達に、事細かくスマートフォンの使い方を教えるイメージです。
(電話を掛けるという根本的な目的は同じだが、操作方法などが全く異なる)
入社してから先輩への同行や研修を重ねていき、徐々に製品知識や手術自体の知識を身に付けてることができ、3ヶ月後にはなんとなく「一人前になれたかな~?」と思っていました。
当時は人員も足りておらず、満を持して?先輩の代わりに単独で導入間もない病院での立ち会いをすることになりました。
「今まで学んできたことを胸を張って言えば大丈夫でしょ」そう思いながら、朝病院に到着し、主治医に挨拶。すると、主治医が担当者本人が立ち会いしないことに激怒。
なんとか陳謝によって主治医の怒りを収めることはできたものの、気まずい雰囲気を引きずったまま手術開始。
緊迫した手術室の中、私に飛んでくる怒涛の質問。
「どうやってここ繋げばいい?」
「ここ治療していいの?」
「これなら合併症起きないよね?」
下手なことを答えるとまた逆鱗に触れかねない・・・
そう思いながら、最低限の安全なセンテンスを瞬時に頭で考え、回答する・・・
そんなことを繰り返し、なんとかメーカーとしての責任を果たしているさなか、
機械にトラブルが発生。冷静にトラブル対応表を見て、対応方法を医師に伝えました。
しかし、運はここで尽きました。
「何度もケーブル使っているので、これは新品に変えてください」
何度もケーブルを使っている、というワードが医師の逆鱗に触れ、
術衣を着た主治医が私のところまで鬼の形相で近づき、「今なんて言った?!?!」
と一言・・・
土下座をする勢いで誤るものの、手術は一時中断となり騒然…
トラブルが起きた製品に関しては代理店と相談し、病院には負担のかからない方法で交換を実施することで、事なきを得ました。
その後の私は、頭が真っ白で何も考えられなくなり、まさに空気と化して、3時間の手術が終わるまで一言も話すことができず、適切なアドバイスを医師にすることができず終わってしまいました。
術後、医師に挨拶をするのもままならず、恥ずかしい思いで一目散に病院を出ました。
後日、病院から担当の先輩にクレームが入り、「あんなやつ連れてくるな」とのこと…
先輩方は優しく受け入れてくださり、研修や同行では学べないような手術立ち会いの基礎まで丁寧に日々教えてくださりました。
準備することは大事ですが、想像以上の準備と、さらにトラブルが起きても焦らないような心待ちが改めて重要だと認識させられる良い機会でした。